硫化物系全固体電池とは?硫化物系固体電解質の特徴・課題・種類について解説。

「硫化物系全固体電池」とは、正極と負極のイオンの伝導を"硫化物系固体電解質"が担う一次電池または二次電池です。スマートフォンや自動車への適用が考えられています。

 

リチウムイオン電池の次世代電池として注目の全固体電池ですが、本命は硫化物系と言われています。

 

本稿では、

「硫化物系全固体電池とはどんな電池?」

「硫化物系全固体電池の特徴や課題や種類について教えて」

という疑問にお答え致します。

 

 

硫化物系全固体電池の概要

 

「硫化物系全固体電池」とは、正極と負極のイオンの伝導を"硫化物系固体電解質"が担う一次電池または二次電池です。硫化物全固体電池は英語では、「Sulfide-based all solid state battery」と表記します。スマートフォンや自動車への適用が考えられています。

 

リチウムイオン電池との違いは、リチウムイオン電池が有機電解液を使用しているのに対して、硫化物系全固体電池は硫化物系固体電解質を使用している点です。

 

硫化物系固体電解質のメリットは、高いイオン導電率と、優れたプレス性(成形性)です。デメリットは、大気安定性が悪いことや、設備やプロセスが複雑な点です。正極との界面抵抗も問題になっています。

 

硫化物系固体電解質は、結晶、ガラスセラミックス、非晶質に大別できます。(ガラスセラミックスとは、非晶質を熱処理により結晶を析出させたものです。)

 

菅野了次氏(東京工業大学)が発見した結晶性のLi10GeP2S12(LGPS)は、室温のイオン導電率が非常に高い超イオン導電体であり、ブレイクスルーと言われております。

 

リチウムイオン電池開発で吉野彰氏がノーベル賞を受賞しましたが、その次の技術がこの固体電解質の技術になります。

 

2018年のNEDOのロードマップをみると、2025年頃に第一世代に硫化物系全固体が考えられており、2030年頃に酸化物系全固体電池が考えられています。

 

f:id:ssmyi418:20191224103049j:plainNEDO:http://nedo.go.jp/activities/ZZJP_100146.html

 

硫化物系全固体電池は、マクセル、日立造船が開発に取り組んでおり、硫化物系固体電解質は、三井金属鉱山が開発に取り組んでおります。各種メーカーが開発に取り組んでおります。

 

用途

 

硫化物系全固体電池の用途は、 スマートフォンや自動車への適用が考えられています。

 

歴史

 

硫化物系固体電解質は、非晶質(ガラス)を中心に開発が進められていました。Li2S-SiS2 系などの二成分系が研究され、さらにLi2S-SiS2 にヨウ化リチウム (LiI) やLi3PO4を加えた三成分系が研究され、高い導電率を示すガラスが得られています。

 

2006年には、 高田和典氏(NIMS)が、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)を表面コートすることによる界面抵抗低減に成功しており、これもブレイクスルーと言われています。

 

2011年になって、菅野了次氏(東京工業大学)が、室温で高いイオン導電率を示すLGPSが発見し、ブレイクスルーと言われております。

 

この2つのブレイクスルーにより、全固体電池が再注目されるようになりました。日本の優れた研究者達により生み出された素晴らしい技術ですね。

 

菅野氏や高田氏にはトヨタなど大手メーカーからの共同開発の依頼が絶えないでしょうね。

 

菅野氏が出演している貴重な動画です。


[ScienceNews2017]全固体電池 次世代電池の有力候補(2017年5月12日配信)

 

種類

 

硫化物系固体電解質は、結晶、ガラスセラミックス、非晶質に大別できます。(ガラスセラミックスとは、非晶質を熱処理により結晶を析出させたものです。)

 

以下、硫化物系全固体電池の特徴をまとめた表になります。

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各状態のイメージ図を記載しました。

 

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結晶

結晶系の固体電解質では、超イオン導電体のLi10GeP2S12(LGPS)が有名です。LPGSのイオン導電率は、現在のリチウムイオン電池に使用される有機電解液と同等のです。全固体電池では輸率=1、リチウムイオン電池では輸率=0.5であることを考慮すれば、有機電解液を超えたと言っても過言ではありません。

 

結晶系の固体電解質では、組成に対して大きく影響を受けるため、最適な組成を選択することが大切です。LGPSは、一般式「Li(4-x)Ge(1-x)PxS4」が出発原料になり、熱処理や配合によりイオン導電率を最大化する"x"の材料になります。

 

LGPSは4V正極を動作させる優れた硫化物系固体電解質であるが、電位窓が酸化側によっており、還元側に対しては耐性が低いデメリットがあります。そのため、リチウムや黒鉛やシリコンなどの標準電極電位の低い材料には適しません。一方で、チタン酸リチウム(LTO)のような高い標準電極電位のものと相性が良いです。

 

リチウムや黒鉛を使用する場合には、耐還元性の高い固体電解質を選択する必要がありそうです。

 

非晶質(ガラス)

非晶質(ガラス)系の固体電解質では、Li2S-P2S5が高いイオン導電率を示すことがわかりました。しかし、非晶質系では現在のリチウムイオン電池の有機電解液の特性により明らかに劣っています。非晶質系では、イオン導電率が、組成に大きく影響することが少ないのも特徴です。

 

ガラスセラミックス

ガラスセラミックスでは、上記の非晶質Li2S-P2S5(Li2Sを70mol%含む組成)を熱処理すると、イオン導電率の高いLi7P3S11が析出することが発見されました。この材料は、現在のリチウムイオン電池の有機電解液の特性に近い特性を持っています。ガラスセラミックスでは、結晶析出温度制御や配合が重要なファクターになります。

 

構成

 

硫化物系全固体電池の構成は以下のとおりです。

 

  • 正極 コバルト酸リチウム(LiCoO2)など
  • 負極 チタン酸リチウム(LTO)、リチウム(Li)、黒鉛(C)など
  • 電解液 硫化物系固体電解質
  • セパレーター なし

 

反応

 

硫化物系全固体電池の反応は以下のとおりです。反応の一例ですが、リチウムイオン電池とほぼ同じです。

 

  • 負極 リチウムを含んだ黒鉛が、リチウムイオンと電子を放出します。
  • 正極 コバルト酸リチウムがリチウムイオンと電子を受け取ります。

 

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起電力

 

全固体電池の起電力は3~4V級です。リチウムイオン電池と同様に扱う正極・負極の活物質によって、 起電力が決定しますので、あくまで参考程度にしてください。

 

特徴

 

硫化物系全固体電池の特徴は以下のとおりです。 

 

メリット
  • 材料が柔らかい
  • プレス性が良い
  • 界面制御しやすい
  • イオン導電性が高い

 

イオン導電性については、硫化物系の方が酸化物系より高いです。これは、硫化物系は格子を形成するアニオンの分極率が大きいためです。アニオンの分極率が高いメリットは以下のとおりです。

 

  • アニオン分極率が大きいと、イオン導電経路になるアニオン間の隙間が大きくなり、イオンが動きやすくなる。
  • アニオン分極率が大きいと、リチウムイオンへの拘束力が少なくなり、リチウムイオンは動きやすくなる。

 

 

プレス性については、室温プレスでも材料間へ入り込み高いパッキング性(空隙を埋める)と、界面制御がしやすいことに優れています。一方、酸化物系固体電解質では高温でプレスする必要があります。

 

デメリット
  • 大気安定性(水分と反応)
  • 設備やプロセスの複雑化
  • 量産性

 

硫化物系固体電解質のデメリットは、水と反応することにより有毒な硫化水素(H2S)を発生することや、そのため作製する設備も複雑になりやすくなってしまう点です。ガス発生の抑制は検討されています。

 

固体電解質は機械混合法と固相反応法により合成されるため、大量生産には向いていません。液相合成も目下検討されています。

 

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